林立するスキー板に隠れるようにほほえむ少女が、いまや世界のスキー女子ジャンプ界のヒロインだ。高梨沙羅、北海道旭川市のグレースマウンテンインターナショナルスクールに通う16歳。
5日、ドイツのショーナッハで行われたワールドカップ第5戦で優勝。翌日の第6戦で4位となり、今季初めて表彰台を逃したものの、ここまで6戦で3勝、2位1回、3位1回。その安定感は世界でも群を抜いている。
北海道上川町の生まれ。父も兄もジャンパーだった。小学生からジャンプを飛び始め、地元の中学校を卒業後、インターナショナルスクールに進んだのは、英語を話せるようになれば、海外で精神的に余裕を持てるようになるから。勝つために決めた進路である。
身長わずかに152センチの高梨がこの競技で世界と戦うためには、相当の困難が伴う。飛ぶというより、「落ちることを遅らせる」といった方がよさそうなこの競技。引力に逆らう揚力を得るためには、スキー板は長ければ長いほど、ジャンプスーツはサイズが大きいほど有利だ。
だが、1998年の長野五輪で日本の「日の丸飛行隊」が金2、銀1、銅1の活躍で世界を席巻すると、ジャンパーは小柄なほど不利になるルール改正が繰り返された。標的が日本選手だったことは明らかだ。長野以降の日本男子苦闘の歴史がその「成果」を物語っている。
5日のW杯表彰式の写真をみてほしい。高梨のスキー板は先端まで写っているのに、両隣の板の先はフレームのはるか外にある。これほど条件が違う中で、なぜ高梨だけが誰よりも遠くに飛べるのか。
専門家はさまざまな解説を試みているが、結局のところ、彼女を「天才少女」と呼ぶしか正解に近づくことは難しそうなのだ。
■ソチの金メダル期待
スキー女子ジャンプのワールドカップ、今季第2、3戦は、来年2月に冬季五輪が開催されるロシアのソチで行われた。競技場に描かれた大きな「SOCHI」の文字の上空を雄飛しているのは、高梨沙羅だ。
おそらく来年のソチ五輪で高梨は、フィギュアスケートの浅田真央と並ぶヒロインとなる。ライバル、キム・ヨナ(韓国)との一騎打ちが予想される浅田より、高梨の方が金メダルに近い存在といえるかもしれない。
それほど現在の高梨は強く、安定しており、なお進歩の余地が大きい。ワールドカップ6戦3勝。幼く愛らしい少女が五輪の舞台で、世界のジャンパーを従えて寒空を断ち切る姿は、見る人の心を熱くさせるだろう。
そんな彼女が年末、周囲をどきりとさせた。12月20日、北海道名寄市での練習中、1回目のジャンプでK点越えの93メートル付近まで飛び、着地直後に転倒し、意識不明で病院に救急搬送された。
診断は脳震とう。だが翌日の再検査で問題がないと分かるとすぐに退院し、27日には札幌市宮ノ森でジャンプ台に帰ってきた。恐怖感は残っていないどころか、転倒したことさえ、よく覚えていないのだという。
年空けて5日、心配された故障上がりの第5戦がドイツのショーナッハで行われ、高梨は1、2回目とも最高の96.5メートルを飛んで快勝した。珍しく、自身で「満点」といってのける会心のジャンプだった。同じショーナッハで翌日、濃霧の中で行われた第6戦こそ4位に終わったが、ここでも2回目のジャンプでは最長の95.5メートルを飛んだ。
飛距離、飛型、安定感。いずれも昨季より進歩している。いまだ16歳。17歳で迎えるソチ五輪を通過点に、高梨はどんな高みまで飛ぶことになるのだろう。



































