でーん、でーん。
それはまるで地鳴りのように体の奥底に響く音色であった。次の瞬間には空気を切り裂く音に変わり、さらには、きらびやかで情感豊かな音色が、聴く者の内臓にまで迫る。
「文楽の三味線は切っ先がすべて。太夫と三味線が目一杯の力を本気でぶつけあったところに、訴える力が生まれる」。文楽三味線の人間国宝、鶴澤清治はそう言い切った。
今月、東京・国立小劇場「2月文楽公演」で、「日本振袖始・大蛇退治の段」(近松門左衛門・作)を勤めている。
神話にも登場する素戔嗚尊(すさのおのみこと)が、八岐(やまた)の大蛇の生贄になる稲田姫を救うため、大蛇に酒を飲ませて酔わせ、退治するという物語。2年前、大阪・国立文楽劇場で127年ぶりに復活上演された際、清治が補綴・補曲をつとめた。
大蛇が変身した岩長姫が毒酒を飲んで次第に酔っ払っていくさまや、素戔嗚尊と大蛇との戦いが、太棹と鼓や笛との掛け合いで迫力たっぷりに表現、太棹の醍醐味が味わえる。
7歳で名人、四代鶴澤清六に入門。清六の死後は同じく名人の十代竹澤弥七門下に。若いころから将来を嘱望され、30代に入ってすぐ、人間国宝の四代竹本越路大夫の三味線を弾く。
「若いころは、『目一杯やれ』とばかり言われてきた。手がこむら返りになるほど弾いたし、三味線の皮を何枚も破ったもんです」
近年は、景事といわれる舞踊劇の芯を勤めることが多い。中堅若手を率いてぐいぐいリードする三味線は溜飲が下がる心地よさだ。「義経千本桜・道行初音旅」では華やかさのなかに切れ味があり、「鬼一法眼三略巻・五条橋の段」ではその臨場感に客席がハッと息をのんだ。
「景事は三味線弾きの力が試される。派手で勢いのある演奏で圧倒したい」
そんな清治の記憶に刻まれているのは、幼いころから聴いた名人たちの音色だという。「偉い師匠、先輩方の横で、ツレ弾きで聴いた音色はいまも僕の記憶と体に残っている。その記憶をたどって、ちょっとでも伝えていきたい」
至高の音色を求めて、清治の旅は続く。
写真 頼光 和弘
文 亀岡 典子
【景事(けいごと)】 文楽の演目には大きく分けて、武家や公家社会のドラマを描く「時代物」、市井に生きる町人の情を描いた「世話物」、そして舞踊劇的な「景事」の3つにジャンル分けすることができます。景事は、義太夫節にあわせて、人形が日本舞踊のように踊るため、華やかな場面が多くなります。代表的な曲に「義経千本桜」より、狐忠信と静御前が登場する「道行初音旅」、「鬼一法眼三略巻」より、牛若丸と弁慶の出会いを描いた「五条橋」、「妹背山婦女庭訓」より、求馬をめぐる橘姫とお三輪の三角関係を描く「道行恋苧環」など。景事の場合、太夫と三味線が数人ずつ並ぶことが多く華やかで迫力ある演奏も魅力。

































