【越智隆治】タイガーシャークに激突される、ダイビングクルーズ

船上から吊るした、巨大なハタの首にかぶりつくタイガーシャーク。このあとロープは引きちぎられて、首は丸呑みされた。

 日本では、人間を襲う凶暴なサメの中の一種として、ダイバーからもその存在が恐れられている、タイガーシャーク(イタチザメ/メジロザメ目メジロザメ科イタチザメ属)は、最大で全長8m、体重は800kgにも達する。その獰猛さは、過去にサーファーがこのサメに襲われた事があるなどの事件が起こったことがあるからだ。

 しかし、このサメが、人間と認識してサーファーを襲ったかというと、疑問だという説がある。このサメは、ウミガメを補食して食べることが知られている。サーファーがボードの上に横になり、パドリングをする姿を、海中から見上げると、そのシルエットは、まさにウミガメそのものだという。

 そのシルエットをウミガメが水面に浮いている姿と誤認して、タイガーシャークがサーファーを襲ってしまったのではないかというのだ。そうはいっても、胃の内容物から、ドラム缶やボトルなどの異物が見つかったこともあるそうだし、今回のクルーズでも、プラスチックのブイに噛み付くシーンを目撃したりもした。いわゆる、何でも「取りあえず食べとく」雑食性の強いサメなのだろう。

タイガービーチと呼ばれる、水深5mの砂地の海底に姿を見せたタイガーシャーク。ダイバーは海底にへばりついて様子をうかがう。手前右のダイバーは手にサメ避けの棒を持っている。

 いずれにしても、生きている人間を襲った記録のあるこのタイガーシャークに出会いに行くダイビングクルーズというのが、バハマ諸島のグランドバハマ島北西にある浅いリーフで行なわれていて、欧米人のダイバーに人気だというのを、皆さんはご存知だろうか。

 日本では、ジンベエザメなどダイバーに人気の世界最大のサメの他は、まだ「海で会いたくない、恐い対象」としての意識が強いが、欧米では、高級なシャークフィンスープ(フカヒレスープ)を作るために、大量のサメを捕獲し、乱獲して、多くの種を絶滅の危機に追いやっているとして、日本の調査捕鯨に対する反対運動同様の勢いで、捕獲反対運動が展開されている。

 私も、facebookで知り合った何人かの欧米人ダイバーに、「アジアの国の人々に、サメの乱獲をしないように働きかけて欲しい」というメッセージをもらったこともある。

 種の絶滅を促すような乱獲は、生物多様性にも反するし、是非とも捕獲数を制限するなどして、守っていくべきだと自分自身も思っているが、「シャークフィンスープ=悪

という一方的な展開を見せる、欧米の人々のイメージ戦略的な行動には、捕鯨反対のそれと同様に、素直に賛同しかねる抵抗感を覚える。

船へのエキジット(浮上)エリアには、沢山のレモンシャークが群れている。

 まあ、そんな社会問題はさておき、このクルーズでは、タイガービーチと呼ばれる水深5mの砂地の海域に停泊した船上から、魚肉をミンチにして、巨大なタンクに入れて、海水を混ぜたものを排出し、船底には「ベイト」と呼ばれる、魚肉を沢山仕込んだ網かごをいくつもぶら下げて、サメを集める。

 最初に集まってくるのは、レモンシャークと呼ばれる種。多いときには、100匹近くものレモンシャークが船の後部にある、バックデッキに群がる。ダイバーである我々は、このレモンシャークが群がるバックデッキから、サメの中に普通にエントリーするわけだ。

 それだけでも最初は恐怖と緊張で、鼓動が高鳴る。エントリーすると同時に、一気に海底に潜り、警戒態勢を取りながら、サメの襲撃に供えていた。しかし何度も経験するうちに、「注意していれば、危害はくわえない」ということがわかり始める。

餌付けするダイバーに、猪突猛進で向かって行くレモンシャークたち。

 特にレモンシャークは、「ベイト」に向かって猪突猛進で、我々ダイバーには興味を示している素振りは見せない。もし、このレモンシャークに噛まれるとしたら、自らベイトを持っていて、サメに与えようとするタイミングを見誤ることによる。つまり、「餌やりをするダイバーのミス」によるところが多い。

 タイガーシャークは、このレモンシャークほど多くは姿を見せない。警戒心も強く、レモンシャークのようにすぐにベイトには近寄って来ない。遠巻きに旋回を続け、少しずつ、その距離を縮めていく。

別のポイントでは、ベイトに、沢山のカリビアンリーフシャークが集まってきた。我々のクルーズ後、別の船のガイドが腕を噛まれたのが、このサメだ

 そして、彼女たち(この海域では何故か、メスのタイガーシャークしか過去に確認されていないという)は、意を決したかのように、不意にこちらにぐいっと身体をひねらせて、接近を開始する。このときの緊張間は、レモンシャークの群れに入り込んだときの比ではない。しかし、この美しい虎模様を持つサメを近くで撮影することが目的で乗船したのだから、怯むわけにはいかない。「過去、このクルーズでタイガーシャークに襲われたダイバーは皆無」というキャプテンの言葉を信用し、自分に「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせ、彼女の接近を待つ。このとき、「向こうに意識を向けて、目を合わせると、近寄って来ない」とシャークダイビングのエキスパートでもある、クルーの一人からアドヴァイスを受けた。

 その言葉通り、タイガーシャークを凝視していると、接近を止めて、また旋回を始める。ためしに、小さい石になったようにうずくまり、下を向いて目線を外してみた。すると、まったく怯むことなく、目の前まで接近してきたのだ。否、接近ではなく、接触。私の構える水中カメラハウジングに激突してきた。

コバンザメを従えて、我々の頭上を泳ぐタイガーシャーク。美しい体型と身体の縞模様に、危険を忘れて見入ってしまった。

 ベイトではなく,完全に私自身に興味を持って調べようとしているような動き。明らかにレモンシャークのそれとは違い、はっきり言って、嫌らしい動きだ。

 しかし、ここまできたら、後には引けない。ファインダーを覗き込み、タイガーシャークを連写し続けた。

 そのクルーズでの写真をfacebookにアップしたところ、「あなたの写真が、アジアの人々にサメは安全な生き物であって、人間に簡単に危害をくわえるものではないといくことを理解してもらえる。サメの保護につながる。ありがとう」というメッセージをもらった。

突然、きびすを返したように、身体を反転してこちらに,向かってきたタイガーシャーク。

 タイガーシャークの接近の仕方はやはりちょっと気持ちの良いものではなかったけど、確かに、このクルーズに乗船する前よりも、サメが思っていたよりも安全な生き物なのかもしれないと感じ始めている。

 と書いている側から、その次の週、別の船のガイドが、餌付け中にカリビアンリーフシャークに腕を噛まれて、ヘリで搬送されたと聞かされた。怪我は大したことは無かったらしいけど・・・。

完全に私に興味を示して、接近してきた。カメラのハウジングに、顔がぶつかった瞬間の写真。このあと、歯に手が触れてしまった。

越智隆治(Ochi Takaji)

越智隆治(Ochi Takaji)

産経新聞写真報道局を経て、1998年フリーの水中写真家に。世界中の海で、海洋ほ乳類など大型の生物を中心に撮影を行なっている。著書多数。Underwater web magazine WEB-LUE(http://www.web-lue.com)主宰。個人のHP、INTO THE BLUE(http://takaji-ochi.com)では、イルカ、クジラ、アシカなどの撮影旅行も開催している。

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